私はコーヒーに目がなく、忙しい時でも、空き時間を見つけてはコーヒーを飲むようにしています。
香りがよくクレマが立ったコーヒーを味わうのはまさに至福の瞬間(とき)です。
コーヒーがない人生は、わさびのないお寿司、バターのないパン、桜の咲かない春と同様、想像したくもありません。

自分の周りの人がコーヒーをどれくらい飲んでいるか興味があり、また生活習慣とかくれ脳梗塞の関係を知りたくて、脳ドックの受診者のコーヒーを飲む量を調べてみました。
日本人にはコーヒーを飲む習慣の人は多いと言われていますが、脳ドックを受けた314人(65歳未満は242人)のアンケートの集計結果では、75%は1日1杯以上コーヒーを飲んでおり、5杯以上飲む方も26%いました。
お茶に関しては、お茶を1日1杯以上飲む方は84%、3杯以上飲む方は18%でした。
私は実家が静岡なのでお茶は水代わりで、自宅では食事を食べながらお茶を飲み、食後もしくは休憩時にコーヒーを飲むのが習慣になっています。
このように私にとってコーヒーとお茶はどちらも生活に無くてはならない大切な飲み物です。

調査では、脳ドックを受けた方の26%には、自分でも知らないうちに脳梗塞がありましたが(一般的にかくれ脳梗塞と言われます)、コーヒーを毎日3杯以上飲んでいる人にはかくれ脳梗塞が少ないということがわかりました。お茶ではそのような関係はみられませんでしたが、お茶の弁護をすると日本人はお茶を飲む人が非常に多いので有意差が出なかったのかもしれません。
今までにコーヒーをたくさん飲む人は脳出血や脳梗塞が少ないという報告はありましたが、コーヒーをたくさん飲む習慣の人にかくれ脳梗塞が少ないことを証明したのは世界で初めてだと思います。
一方、かくれ脳梗塞がある方はアルツハイマー病などの認知症になりやすいことがすでにわかっています。日本のような高齢化社会では、アルツハイマー病にならない生活習慣を身につけることが社会全体として求められていますが、コーヒーを毎日3杯以上飲むことによってこれがある程度かなえられる可能性があります。

脳外科総会や脳卒中学会、脳ドック学会などで発表したものを英語論文にまとめ、2016年にJournal of Stroke and Cerebrovascular Diseaseという医学雑誌に発表しました。
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full textLinkIcon(JSCVD 2016)
ここでは、その論文のまとめ(抄録)の日本語訳をご紹介します。

65歳未満の脳ドック検診者における無症候性脳梗塞と1日コーヒー量の相関
中年人口における無症候性脳梗塞(silent brain infarcts:SBI)と一日コーヒー消費量の関係を見るために、我々はそれまでに大病をしてない健康な65歳未満の脳ドックの2008年から2009年受診者242例を対象として、検診時のアンケートで調べた生活歴・既往歴の諸因子と脳MRIの所見の関係を統計学的に分析した。コーヒーを飲まないもの(参照群)と比較して、コーヒー摂取量3-4杯/日と≥5カップ/日のもののSBI発生率は、統計的有意差をもって低値であった(それぞれ、オッズ比=0.22、95%信頼区間=0.07~0.64、p=0.004、オッズ比=0.43、95%信頼区間=0.19~0.99、p=0.043)。漸増型ロジスティック回帰分析は、SBIは統計学的に有意差を持って、コーヒー1日3杯以上(同0.43, 0.014, 0.22~0.84)、高血圧の既往(4.2, 0.0001, 2.0~8.8)、無職(2.1, 0.037, 1.0~4.4)の3因子に強く影響されていた。同時期に脳ドックを受けた65歳以上の62受診者においては、漸増型ロジスティック回帰分析で高血圧の既往(4.3, 0.008, 1.5~12.9)に強く影響されていたがその他の因子には強く影響されていなかった。今回の分析は、コーヒー3杯以上を毎日飲む65歳未満の人は無症候性脳梗塞が少ない傾向があることを示した。よって若年からコーヒーを毎日3杯以上飲めば、高齢時の認知症や症候性脳梗塞の発生率を低くできる可能性がある。


コーヒー好きにとっては美味しいコーヒーをいただくだけで認知症になりにくくなるという、一石二鳥、願ってもないニュースだと思いますので、現在私は「毎日コーヒーを3杯以上のんでかくれ脳梗塞にならないようにしよう!」というキャンペーンを病院内・外(自宅でも)で繰り広げています。


ただしコーヒーをたくさん飲むことに関しては、注意点があります。高血圧の方は、コーヒーを飲んだあとに血圧が上がることが報告されています。血圧の薬を飲んで、血圧がきちんと下がっていれば大丈夫です。
色々な文献を読むと、日本人はコーヒー1日6杯以上は飲み過ぎであり、1日3杯から5杯が至適量のようです。
妊婦さんはコーヒーは飲まないほうがいいようです。また、ニコチンは骨粗しょう症にはよくないので、骨粗しょう症の人は1日牛乳1杯飲むか、コーヒーにミルクをいれて(カフェオレ、カフェラテやカプチーノ)飲むといいと思います。

みなさんも、おいしいコーヒーを1日3杯は飲むようにして、かくれ脳梗塞になりにくい生活習慣を身につけましょう。

なおこの論文を元に、「脳梗塞にならない生活習慣~コーヒーを飲む習慣の観点から~」と題して講演しましたので、その内容をご紹介します。LinkIcon市民公開セミナー2018年3月24日

健康月刊誌「安心」(マキノ出版)2022年3月号に私のインタヴュー記事「脳ドックの調査で判明!「1日3杯のコーヒー」が隠れ脳梗塞のリスクを下げる」が掲載されました。ぜひご覧ください安心 2022年3月号p128-129