もやもや病という日本語のオノマトペが病名になった脳血管障害があります。白人や黒人に少なく、日本人を含めた黄色人種に多く、日本の医師が世界ではじめて発表しました。
日本脳神経財団発行のブレイン2012年10月10日号に寄稿しましたのでその文を転記します。

症状と病気 自己チェック
もやもや病とは-日本語のオノマトペが病名になった珍しい病気
日本語が病名となった病気の一つにもやもや病があります。
脳梗塞、脳出血、けいれんをおこすまれな脳の血管の病気で5歳ごろと40歳ごろに多くみられます。
日本は昔から、アメリカやヨーロッパとはちがう文化が育まれ、英語では日本文化を表現することができないことがあり、古くはすきやき、芸者、ふじやま、最近では、つなみ、おたくなど日本語が英語になった例は枚挙にいとまがありません。ただし、医学においては西洋医学が明治から一方的に日本に入ってきたことなどにより、日本語の医学用語が世界で使われることはまれです。日本人に多い病気に日本人の名前がついた例はありますが(橋本病や川崎病など)、日本語の名詞が病名となることは少なく、もやもや病(moyamoya disease)はそうしためったにない病名の一つです。
もやもや病とは、脳内の太い血管が何年もかけて少しずつ細くなり、そのあいだに脳梗塞、脳内出血やけいれんなどをおこす病気です。15%は親から子へ遺伝しますが残りはいまだ原因がわかっていません。細くなっていくあいだに脳のもともと細い動脈が必要に迫られて太くなり、血管撮影ではもやもやとけむっているように見えます。この病気は日本人を含めたアジア人に多く、最初にこの病気を英語で報告した日本の先生が、もやもや病と名付け(1969年)、その後この名前が世界中に広まりました。「もやもや」ではなく「もじゃもじゃ」や「もくもく」のように見える場合もありますが、やはり一番しっくりするのは「もやもや」というオノマトペだと思いますので、今から考えてもいいネーミングでした。よくある動脈硬化による脳梗塞と比べてめったになく、十万人に0.3−0.5人のかたが一年で新しくこの病気になると言われています。
もやもや病は5歳ごろと30~40歳ごろになることが多く、子供は脳梗塞、大人は脳出血がおおい傾向があります。もやもや病の子は、幼稚園から小学校にかけてけいれんや手足が動かなくなるなどの症状が出て診断されることがあります。けいれんは呼吸を早くした時にみられることが多く、息をふーふー吹きかけて熱いラーメンをさまして食べている時に、けいれんを起こすことがあると言うことがありますが、当然、ラーメンを食べること自体が悪いわけではなく、呼吸が早くなることが引き金となります。血液内の酸素が多すぎると活性酸素という毒が発生するため、体はあまり酸素濃度が上がりすぎないように血管を縮こませます。もやもや病の患者さんはもともと脳の血管が細いのにさらに早い呼吸で血管が細くなると、けいれんがおきるのです。
もやもや病の治療には薬や手術があります。薬はけいれんを抑える抗けいれん薬、脳梗塞にならないようにする抗血小板剤などがあります。手術は細くなった脳の血管に皮膚の下を走っている別の血管をつなげて直接脳の血流を増やします(バイパス術)。また筋肉や皮膚の血管を脳の表面においておくだけでも半年ぐらいで血管が筋肉や皮膚から脳に入ることが分かっています(動脈硬化により脳の血管が細くなった場合はこの方法は効果はありません)。
もやもや病は脳のMRI検査で簡単に診断することができますので、気になる方はMRIを是非受けてください。もやもや病と診断され、以前に麻痺などの症状がみられる方は、再発作の予防を積極的に考える必要があります。バイパス術が可能な脳神経外科のある病院を受診することをお勧めします。

もやもや病の脳血管撮影の写真はこのように動脈の先が細くなり、もやもやとした血管の集まりが見られるのが特徴です。

もやもや病の補足情報
・ウィリス動脈輪を構成する脳底部主幹動脈の両側性進行性狭窄・閉塞と異常な側副血行路(もやもや血管)の二次的発達を生じる疾患。原因不明ですが、兄弟や親子間での発生が約10%弱と多いことや日本人あるいは他のアジア系民族に多いことより、遺伝子疾患である可能性が考えられています。
・1年間で新たに見つかる患者さんは10万人あたり0.35人で、人口10万人に5人の割合で患者さんがいます。男女比は1:1.7で女性に多くみられます。
・好発年齢は5歳と30~40歳の2峰性を示します。
・脳血管撮影ならびに脳血流検査(SPECT等)を行い、貧困灌流がある場合は、頭蓋外-内血行再建術を行います。出血発症の場合も血行再建術で再出血をふせぐという報告があります。