脳卒中
・脳卒中(apoplexy or stroke)は、脳血管の障害により、突然意識障害その他の神経学的異常が生じるものをひとまとめにして呼んでいます。
・脳卒中にはくも膜下出血、脳梗塞(脳血栓症、脳塞栓症)、脳内出血(脳溢血)があります。このページではくも膜下出血、脳梗塞、脳出血について説明します。
・脳卒中の危険因子として、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、多量飲酒、ストレスなどがあり、これらを治療、改善することが、脳卒中発症の予防になります。
・ 慢性期になっても、意識障害、失語症、片麻痺、歩行障害などを後遺することが多く、リハビリ、全身管理、長期にわたる介護が必要となります。


くも膜下出血
・年間10万人あたり10~20人の割で発症します。男女比は1:1.5で女性に多く、その95%が脳動脈瘤の破裂によっておこります。
・多い場所から、前交通動脈部(30%)≒内頚動脈後交通動脈分岐部(30%)>中大脳動脈分岐部(13%)>椎骨脳底動脈系(6%)の順です。
・脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は、発症時に即死するものが10~15%、病院で治療を受けても死亡するものが20~30%といわれ、非常に命の危険性が高い病気です。
・ 一度切れた脳動脈瘤がもう一度切れたら命が助かることは少なく、生き残っても重度の後遺症をかかえることが多いため、再破裂の防止が非常に重要です。
・ 再破裂防止には、安静、鎮静剤鎮痛剤投与、止血剤投与、血圧管理等が重要であり、外科的治療法として開頭クリッピング術、血管内手術(脳動脈瘤コイル塞栓術)を行います。
・くも膜下出血になってから3日目から14日目までは脳血管攣縮期(スパズム期)といい脳の動脈が栄養不足のようになってどんどん細くなっていきます。この時期には脳梗塞にならないように輸液を増やしたり、予防薬を点滴しなければなりません。
・脳は脳脊髄液の中に浮かんでいますが、くも膜下出血になるとこの脳脊髄液が血で濁り吸収されにくくなります。脳脊髄液が脳の中にたまった状態を水頭症とよんでいますが、水頭症は脳室ドレナージ(慢性期には脳室腹腔シャント術)で治療することができます。
・脳底動脈頂部の動脈瘤破裂によるものは、中脳への細枝が動脈瘤より出ていることが多く、開頭クリッピング術は合併症が多いため(手術の後に麻痺や意識障害が出ることが多いため)、血管内手術(脳動脈瘤コイル塞栓術)を行います。このように動脈瘤の場所によっては脳血管内手術のほうがやりやすいところがある反面、中大脳動脈瘤のように開頭クリッピング術のほうがいいところもありますので、ひとつひとつどちらの治療がいいかを考えなければなりません。
・動脈瘤径が10mmを超えると大型動脈瘤、25mmを越えるものを巨大動脈瘤と言いますが、クリッピング、血管内手術ともに治療が難しくなります。
三友新聞平成29年1月26日号に医療コラム「医療最前線 くも膜下出血」が掲載されましたのでご参照ください。
(三友新聞 医療最前線 くも膜下出血)三友新聞.jpg
脳動脈瘤の実際の手術例を「自己紹介」に載せましたので御覧ください。
(自己紹介 脳動脈瘤手術例 写真1から写真4)


脳梗塞
・閉塞性脳血管障害は、症状の進行の仕方より(1)一過性脳虚血性発作(1日以内に症状がなくなるもの。ティー・アイ・エー=TIA:transient cerebral ischemic attackと呼ばれています)、(2)進行卒中(症状が進行増悪するもので脳梗塞全体の10%ぐらいはこれにあたり、入院して点滴治療をしっかりと受けても症状が悪くなり、医療不信につながる可能性があります) 、(3)完成卒中(1回の発作で症状が完成されるもの)に分類されます。
・脳梗塞は、動脈硬化(粥状硬化)によって血管が狭くなっておこるアテローム血栓症、不整脈などが原因で、心臓にできた血栓が血液により運ばれて脳の血管を詰めておこる心原性脳塞栓症、脳の細く枝分かれした先の動脈が詰まっておこるラクナ梗塞(脳MRIで15mm未満のもの、ラクナとは「小さな穴」という意味です)に分けられます。
・脳梗塞の症状が出て4.5時間以内であれば、血栓溶解剤(ティー・ピー・エー=tPA:tissue-type plasminogen activator=組織プラズミノゲンアクチベーター、塞栓症・血栓症ともに使用可能)を行います。この治療を受けた30~40%が自宅に歩いて帰ることができますが、脳出血などの合併症は6%です。
脳血栓症に対しては抗凝固剤(へパリンもしくはアルガトロバン)、抗血小板剤(オザグレルナトリウム)投与の他に、昇圧剤投与(低血圧の場合)、輸液、代用血漿剤(低分子デキストラン)点滴等が行われます。
・脳梗塞再発を予防する外科治療として、外頚動脈系から内頚動脈系へのバイパス術(浅側頭動脈—中大脳動脈吻合術= STA-MCA anastomosis)、内頚動脈内膜剥離術があります。
(内膜剥離術紹介ページ)
(自己紹介 内頚動脈内膜剥離術例 写真5)
(バイパス術紹介ページ)
(自己紹介 バイパス術例 写真6から写真8)
・慢性期は、塞栓症の場合は、抗凝固剤(ワーファリン、プラザキサ、イグザレルトなど)を、血栓症の場合は抗血小板剤(クロピドグレル、シロスタゾール、アスピリン)を内服し、かつ脳梗塞の危険因子の除去(高血圧、糖尿病、高脂血症の治療、生活習慣の改善)につとめます。


脳内出血
① 高血圧性脳内出血、
② 器質性疾患による脳内出血(たとえば動脈瘤破裂、脳動静脈奇形(AVM)の出血、血管腫からの出血、その他の腫瘍からの出血など)、
③ 凝固能異常による出血(肝不全、腎不全、透析中の患者、血友病、DICなど)に分けられます。
①は生活習慣の改善、高血圧・糖尿病・高脂血症の治療で再発予防できますが、②③は再出血の可能性があり、②は再発予防のために手術などの治療が必要なことがあります。
・高血圧性脳内出血は、被殻出血>視床出血>(皮質下主血)>小脳出血>橋出血の順に多くみられます。
・被殻出血、小脳出血、皮質下出血は一般的に大きいものに対して、開頭血腫除去術を行うことがあります。特に小脳出血は径が3cm程度でも脳ヘルニアとなることがあり緊急手術の対象となります。
・視床出血では、その部位より第3脳室に穿破しやすく、小さな出血でも水頭症を呈することがあります。水頭症を合併すれば脳室ドレナージを行います(慢性期には脳室腹腔シャント術を行います)。
「今日の治療指針2017年版」p881「脳出血の治療」の項を執筆しました。開業医・勤務医に向けて、最新の脳出血の治療をまとめましたのでご参照ください。
(今日の治療指針2017年版 脳出血の治療)
(脳出血のすべて)
(AHA脳出血ガイドライン2015)



脳動静脈奇形=AVM(arterio-venous malformation)
(血管奇形紹介ページ)
・男女比は1.1〜2.0対1で男に多くみられます。
・人口10万人に0.9〜1.2人の発見率。くも膜下出血の1/6〜1/10に見られるといわれます。出血発症が60%、てんかん発症が20%。
・AVMにたいしては、開頭AVM摘出術のほか、血管内手術を行うが、小さいもの(直径2.5cm以下)では放射線療法(ガンマナイフ)が有効なことがあります(ガンマナイフ後2年後に80%以上が消失する)。


海綿状血管腫:血管撮影では異常ないことが多いが、脳内に桑の実状の血管の塊があり、時として多発し、出血することがあり、その場合は開頭血管腫除去術をおこないます。
(小脳虫部海綿状血管腫手術例)


静脈奇形:動脈には異常ないが、異常静脈が血管撮影で見られます。出血するのは稀であり経過観察のみでいいと考えられています。


内頚動脈海綿静脈洞瘻
・海綿静脈洞内を走行する内頸動脈に断裂が生じ、海綿静脈洞との間に生じる動静脈瘻です。
・原因:外傷性と特発性(動脈瘤や動静脈奇形による内頸動脈から海綿静脈洞内への血液の流入)があります。
・症状:拍動性の眼球突出、眼球結膜の充血浮腫、外眼筋麻痺による複視、脳出血、緑内障、拍動性の耳鳴り、拍動性の頭蓋内雑音 bruitなど。
・検査:造影CT、MRI;眼球突出、海綿静脈洞の拡大、眼窩内の静脈がみられます。 脳血管造影;内頸動脈と海綿静脈洞が同時に造影されます。
・治療:脳血管内手術(コイル塞栓術coil embolization;内頸動脈もしくは静脈経由でカテーテルを誘導して損傷部位をふさぎます)。