急性期(3日以内)脳出血の診断はかつてはMRIはあまりあてにならずCTが診断の主役でした。最近になりT2*強調画像(ティー・ツー・スター強調画像とよびます)というMRIの画像診断法が開発され、急性期においてMRIで脳内出血が明瞭に描出されるようになりました(図1、図2)。
それどころかCTではわからなかった昔の脳出血がくっきりとT2*協調画像でわかります。初めて脳出血になった患者さんでもT2*強調画像をとってみるとかなりの率で小さな脳出血の後が見つかります。
つまりT2*強調画像を脳ドックで行うと症状が出る大きな脳出血になる前に脳出血をみつけることができ、将来的な大きな脳出血を予防することができるのです。
私はこの画像が導入されてすぐに脳出血患者の頭部CTとT2*強調画像を見比べて、その特徴を分析し、学会報告、論文発表をしました。
このページでは論文発表の内容の一部をのせています。
新しい画像法の開発が脳卒中の診断や治療に大きな影響を与えることを示すわかりやすい例だと思います。
CI研究31:21-27, 2009(CI研究2009)
Clinical Neuroscience 中外医学社28巻3号, p346-347, 2010(Clinical Neuroscience 2010)
脳内出血のMRI T2*強調画像における多発性低信号病変
T2*強調画像の特徴:T2*強調画像は磁場の不均一性に敏感であるグラディエントエコー法で撮像したMRI撮像法の一種です。T2*は局所磁場の磁化率効果の影響を強く受け、出血、造影剤の存在等で著明に短縮します。磁化率効果の描出が鋭敏すぎると種々のアーチファクト(信号のみだれ)の影響を受け急性期脳内血腫との鑑別が困難になり、感度が低いと血腫の描出能そのものが落ちると考えられます。
T2*強調画像の長所:新旧の出血病変の描出能が良く、微小出血、血管腫、脳表ヘモジデリン沈着症、びまん性軸索損傷における微小出血巣の検出能が他の画像より格段に優れています。撮像時間が短く、体動のある患者、不穏のある患者にも行いやすいメリットがあります。特に潜在性脳内出血の診断が以前より容易となりました(図2)。アミロイド血管症や高血圧症の患者ではCTや通常のMRIでは判然としない陳旧性出血がT2*強調画像にてのみ明瞭に描出されることがあり、また脳卒中においては以前考えられた以上に潜在性微小出血がある症例が多いことが最近の報告で明らかにされています。潜在性脳内出血: T2*強調像は潜在性脳内出血の描出が非常に優れています(図2)。わたしたちは脳内出血患者のT2*強調像を検討し、92%で他の部位に先行する微小出血が存在していたことを報告しました。加藤らはT2*強調画像での検討で、微小脳内出血は、脳内出血患者の71.4%、ラクナ梗塞の62.1%、心原性脳塞栓症の30.4%、アテローム血栓性脳梗塞 の20.8%、コントロールでも7.7%で見られたと報告しました。T2*強調画像で多発性潜在性微小出血がみられた場合、若年期より高次機能障害が見られやすいとの報告があります。また、微小出血を繰り返すうちに症候性脳内出血を生じる例が多いことがわかってきました。外来診察や脳ドックの際に、T1強調画像、T2強調画像、FLAIR画像等従来のMRI撮像法に加えT2*強調画像を行い潜在性脳内出血の有無を診断し、潜在性脳内出血を認めた患者に対しては血圧の厳密なコントロールを含めた生活習慣病予防を行うことが推奨されます。T2*強調画像の短所:T2*強調画像は従来の撮像法と比較して、空気、石灰化、頭蓋骨、flow void等の低信号(signal loss)、金属が強調され、これらとの鑑別が重要です(図3)。
むすび:T2*強調画像により従来困難であったMRIによる脳内出血急性期診断が可能となり、慢性期の微小脳内出血もわかるようになりました。ただし, T2*強調画像の欠点(磁化率アーチファクトの影響を受けやすいこと、血腫内で信号強度が異なる部位が存在するため血腫形状を正確に把握できないこと等)には注意が必要です。
図1
急性期橋出血の頭部CT、MRI T2*強調画像、T2強調画像。
T2*強調画像(右3枚)では急性期出血はまわりが黒く、中が白く見えるのに対し、かくれ脳出血は黒い毛糸のたまのように見えます。
図2
右視床出血の頭部CT、MRI T2*強調画像、T2強調画像。
T2*強調画像(右3枚の画像)では20個以上の小さなかくれ脳出血が、今回の出血前にすでにあったことがわかります。
図3
左前頭葉皮質下出血の頭部CT、MRI T2*強調画像、T2強調画像。
T2*強調画像(右3枚)では脳幹や左前頭葉、左側頭葉等に多数のかくれ脳出血が見られます。
図4
T2*強調画像の欠点であるアーチファクト(信号の乱れ)を示します。
前交通動脈瘤クリッピング術後ですが、動脈瘤クリップ周囲は巨大な球状の低信号域となり(矢印)、また右側頭部の頭蓋形成用チタンプレートが金属アーチファクトを呈し、周囲の病変は診断不能です(矢頭)。