神経鞘腫(neurinoma,schwannoma):神経外鞘のSchwann細胞から発生する良性腫瘍です。聴神経鞘腫は全脳腫瘍の10%で、小脳橋角部腫瘍の約80%を占めます。好発は40-60歳で男女比は1:1.3で女性に多く見られます。全身にできますが、中枢神経系では頭蓋底部の脳神経及び脊髄の神経根部にみられます。前庭神経>>蝸牛神経、三叉神経、稀に顔面神経からも発生します。von Recklinghausen病に合併する際は多発性両側性にみられます。
初発症状は聴力障害が最も多いが、難聴の自覚よりはるか以前に発作性めまいを経験する。突発性難聴の形を取ることもあります。
電気生理学的診断として聴性脳幹反応(auditory brainstem evoked response:ABR)により蝸牛神経障害の異常を検出することができます。
聴神経鞘腫は大きくなると聴力が低下するため、比較的早期に難聴で発見されることが多く、手術による命の危険性や麻痺が生じる危険性は低い腫瘍です(手術死亡率1%未満)。ただし、腫瘍内もしくは腫瘍表面に顔面神経が存在しており顔面神経の温存が手術の重要なポイントとなります。顔面神経を電気刺激をしながら丁寧に摘出することで顔面神経の損傷を来す可能性は近年低くなっています。一方、聴力温存は困難であることが多く、特に3cmを超える腫瘍では術後に聴力が保たれる可能性は低いと言わざるを得ません。その場合でも、骨導により対側で聞き取ることができるので、生活には大きな支障はきたさないことがほとんどです。

参考までに手術方法を説明します。

①経迷路到達法translabyrinthine approach
小脳橋各部への進展がほとんどない場合、原則的には内耳道内の腫瘍に対して有用である
欠点
聴力は犠牲になる(既に聴力はないか、他の到達法でも聴力の温存が不可能なら受容できる)。
術野が制限される(到達可能な腫瘍の大きさが限られる)。
後頭下開頭よりも時間がかかる。
術後髄液漏の危険性が高い。
利点
初期の段階で顔面神経がわかるので温存しやすい。
小脳や下位脳神経を傷害する危険性が少ない。
大槽に血液が入って症状を出すことが少ない(本質的には硬膜外到達法である)。

②後頭蓋窩到達法(suboccipital, retrosigmoid approach)
聴力と顔面神経の温存に適している。
欠点
translabyrinthineよりも合併症が多い。内耳の機能障害を生じる前庭vestibuleに入ることなしに、内耳道のlateral recessから小腫瘍を摘出することは困難である。顔面神経は腫瘍の背側にあり最後に見える。

大きな腫瘍:大きな腫瘍では、被膜が脳幹部に癒着して腫瘍を残さざるを得ない。この場合の再発率は約10-20%である。


③中頭蓋窩到達法(middle fossa approach)
小さくて外側にある内耳道内の腫瘍に限られる。後頭蓋窩には到達しがたい。顔面神経麻痺をきたす可能性が高い(geniculate ganglionの障害)。聴力は温存できる可能性がある。
顔面神経刺激装置や聴性脳幹反射(術中持続モニタリング)を使用して、顔面神経を温存する手術を心がけています。