ここからは頭蓋内にできる様々な腫瘍(原発性腫瘍に限らせていただきます)を頻度順に紹介していきたいと思います(ただしこのホームページはあくまでも脳神経外科の治療を一般の方にわかっていただくために作成しており、百科事典的に全腫瘍を網羅することが目的ではないことはご理解下さい)。
いずれの腫瘍も、これまでに説明した開頭腫瘍摘出術の工夫(脳腫瘍の治療 その1からその4)を確実に行うことで、安全に手術をすることができます。
手術の原則は原則として、個々の腫瘍の特徴を捉えて、さらに手術アプローチを工夫しております。
手術や治療に際しての押さえるべき腫瘍のポイントをこの項から説明していきます。

神経膠腫に対しては、三井記念病院の機関紙である「ともに生きる」 第4号(2012年10月20日)に寄稿していますので、こちらの方も併せて御覧ください。
ともに生きる第4号特集がんに立ち向かう 第3回神経膠腫(グリオーマ)

原発性脳腫瘍の頻度Brain Tumor Registry of Japan 原発性脳腫瘍組織別頻度
・神経膠腫25%:星細胞腫8%、退形成性星細胞腫5%、多形性膠芽腫9%、乏突起膠細胞腫1%、上衣腫1%、脈絡叢乳頭腫0.4%
・髄芽腫1%
・胚細胞腫3%:ジャーミノーマ2%、奇形腫0.2%、絨毛癌0.1%、卵黄嚢腫瘍0.2%
・髄膜腫26% ・下垂体腺腫18% ・神経鞘腫10% ・頭蓋咽頭腫4% ・悪性リンパ腫3% 
 (その他転移性脳腫瘍が18%)
以下は神経膠腫(グリオーマ)を治療する上で必要不可欠な知識です。
特に疫学・画像・病理上の特徴をまとめてみました。
①神経膠腫総論
 ・神経膠腫gliomaは狭義には星状膠細胞由来の腫瘍であるが、広義にはグリア細胞由来の全腫瘍(星状膠細胞腫、稀突起膠細胞腫、脳室上衣細胞由来の腫瘍)を示す。
・星細胞系腫瘍が75%を占める(星状膠細胞腫、多型性膠芽腫、退形成性星細胞腫)。
・その他上衣腫、乏突起膠細胞腫、脈絡乳頭腫がある。
・星細胞腫のgrading
神経病理学的なgrading(Kernohan):退形成、核の大小不同、核分裂像の数などにより4段階に分ける。 Grade 1、2 (low grade astrocytoma)は高分化型であり、良性である(ただし、悪性転化が起こりうる)。Grade 3、4 (high grade astrocytoma)は低分化型であり、悪性である。
最善の治療を行った場合の生存期間中央値はgrade 1 は8〜10年、grade 2は7〜8年、grade 3は約2年、grade 4は1年以内である。
②びまん性星細胞腫=low grade astrocytoma
 ・実質型と嚢胞形成型がある。
 ・嚢胞形成型では、嚢胞を形成し壁在結節として腫瘍が限局性に見える。
 ・MRIで境界鮮明な腫瘍像が1個ないし数個の脳回に限局している。造影性は乏しい。
 ・脳血管撮影では腫瘍血管像が見えず無血管野として腫瘍が存在している。
 ・小児や若年者に多い。
 ・石灰化は稀である。細胞密度は低く、腫瘍内に正常脳組織を有する。核分裂像はない。
③退形成星細胞腫anaplastic astrocytoma
 ・平均年齢46歳。中年男性(35〜54歳)に好発。
 ・大脳半球が好発部位であり、周囲脳との境界は不鮮明である。
 ・MRIでは腫瘍本体が強く造影され、周囲に著明な脳浮腫を伴うことが多い。
 ・病理学的検査では、細胞密度が高く、核分裂像が散見される。 
 ・多型性膠芽腫とは異型性がより低く、壊死巣(凝固壊死巣及び偽柵状配列)がみられない点で鑑別する。
 ・平均年齢46歳。中年男性(35〜54歳)に好発。
 ・大脳半球が好発部位であり、周囲脳との境界は不鮮明である。
 ・MRIでは腫瘍本体が強く造影され、周囲に著明な脳浮腫を伴うことが多い。
 ・病理学的検査では、細胞密度が高く、核分裂像が散見される。 
 ・多型性膠芽腫とは異型性がより低く、壊死巣(凝固壊死巣及び偽柵状配列)がみられない点で鑑別する。
④多形性膠芽腫(glioblastoma multiforme)
 ・中年45〜64歳男性に多い。高齢者の予後はきわめて悪い。
 ・多中心性は約20%,剖検では5〜10%。
 ・髄液播種は5〜7%(髄液内で増殖あるいは着床、増大するのは稀)。
 ・中枢神経以外への遠隔転移が時としてみられ、肺、リンパ節、骨、肝に転移する。
・ 多形性膠芽腫は大小不同で多形性な細胞が密に存在し、巨大及び多核細胞が混在。偽性柵状構造、毛細血管内皮細胞には多層性増殖がみられ、糸状体係蹄状血管構造を示す。周囲脳組織に星細胞性神経膠症gliosisを見る。
 ・初発症状は頭痛、けいれん、性格変化が多い。
 ・病理学的に50〜70%が対側大脳半球に浸潤。
 ・術後放射線治療のみでは生存平均値は5ケ月前後延長するにすぎない。
 ・手術→放射線療法+化学療法も併用した場合でも、生存平均値は50〜60週、2年生存率30%以下、5年以上の生存は稀なのが現状である。
⑤乏(稀)突起膠細胞腫oligodendroglioma
 ・乏突起膠細胞(oligodendroglia)由来のゆっくり発育する浸潤性の腫瘍。病理では蜂の巣構造あるいは目玉焼き像を示す。
 ・大脳半球(特に前頭葉)に98%以上が発生し、脳表に突き出るように発育する。
 ・全脳腫瘍の1.1%、神経膠腫の4.4%を占める。
 ・30歳以降の男性に多い。小児ではきわめて稀である。
 ・5%前後に退形成性乏突起膠腫がある。
 ・初発症状としてはけいれん発作が第1位で57~87%を占める。前頭葉に腫瘍が存在すれば性格変化(精神情動障害)が10~40%に観察される。
 ・画像は腫瘍内の小さな石灰化が特徴。
 ・脳表に突出する進展像を示す。
 ・腫瘍内出血も特徴の一つであるが出血巣は小さく脳卒中症状を示すことはほとんどない。
 ・標準治療は可及的多量切除に続く放射線局所照射で5年生存率は80~100%、再発までの期間は5~7年との報告が多い。
 ・病理検査で1p19q co-deletionがある場合はニトロソウレア系の抗癌剤(PCV療法=procarbazine、CCNU、vincristine)ない場合はテモゾロミドを使用する。
⑥上衣腫ependymoma
 ・脳室の内面を覆う脳室上衣細胞由来。 
 ・全脳腫瘍の1%、神経膠腫の4%。病理では上衣ロゼット(真性ロゼット)、血管周囲性偽ロゼットを示す。
 ・小児期、特に10歳までが多い(40%)。男性にやや多い(1.1倍)。
 ・頭蓋内では第4脳室(35%)が最も多く(特に小児)、第3および側脳室発生が14%である。脊髄にも好発し脊髄腫瘍の10~15%を占める。
 ・脳室内を充満して閉塞性水頭症をきたすまで特徴的な症状を出さない。
 ・全摘出が行えた場合は経過観察でいいがわずかでも残存腫瘍がある場合は局所照射を行う。5年生存率は60~70%である。
⑦グリオーマの補助療法
A放射線療法: 細胞分裂周期中のDNA合成を終了したG2-M期に作用(2log kill)。
B化学療法:化学療法は一般にDNA合成期(S期)に作用(1log kill)。以前はニトロソウレア剤(ACNU)、ビンクリスチンの併用療法が主であったが、テモゾロミドが登場してからは完全にテモゾロミドが主療法となった。病理診断で多型性膠芽腫と診断されれば、テモゾロミド内服薬42日間+放射線治療4週間を行う。4週間開けてテモゾロミド内服5日間を繰り返す。治療の効果はMGMT(+)の場合はより有効。
C免疫療法:インターフェロン①細胞増殖抑制作用、②DNA、蛋白合成阻害、③Cell cycle、特にS期のブロック。副作用:①発熱(55-76%)、②白血球減少などの骨髄抑制作用(25-62%)、③一過性の肝機能障害(15-35%)、④全身倦怠感、食欲不振(10-30%)、⑤抑鬱状態。

D交流腫瘍治療電場療法(オプチューン🄬):粘着性シートに取り付けられたセラミック製の電極パッド(アレイ)で脳に電場を作り膠芽腫の細胞分裂を阻害します。自宅で行う治療で、全剃毛が必要です。オプチューン+テモゾロミド併用治療群の2年生存率は43%、5年生存率は13%、一方テモゾロミド単独治療はおのおの31%、5%と報告されています。三井記念病院で現在1名で使用中です。過去に2名の患者さんに使用しました。
Eウィルスベクター療法(テセルバセツブ:デリタクト🄬)東京大学医科学研究所藤堂具紀教授が単純ヘルペスウイルス1型(口唇ヘルペスのウイルス)に人工的に3つのウイルス遺伝子を改変した第三世代のがん治療用ヘルペスウイルス G47Δを使用した世界初の脳腫瘍ウィルス治療薬です。現在は東京大学医科学研究所でしか施行できませんが、三井記念病院の患者さんも治療していただいています。