頸椎の変性疾患(骨の変形と椎間板のとびだし=椎間板ヘルニア)は年齢とともに徐々に増え、また首のけがで頸椎の変形・骨折、椎間板ヘルニアが生じると頸髄の圧迫により様々な神経症状がでてきます(手足の感覚障害や麻痺など)。神経症状に合致する頚椎症病変が画像診断で裏付けられた場合に手術の対象となります。
頸椎症に対する手術法は大きく分けて前方よりのアプローチと後方からの椎弓形成術に分けられます。前方アプローチは頚椎症の病態を考えると後方アプローチより理にかなった術式であり、自然な前彎をたもつことができます。顕微鏡下で椎間板を摘出し、椎間板面の椎体をドリルで薄く削開し、さらに後方骨棘をドリルで削除し、自家骨(腸骨という腰の前外側の骨をとります)もしくは人工骨(アパセラム、チタンケージ、プラスチックケージ等)を使用して椎体間固定を行います。
なお、3椎体以上がかかわっている場合は前方固定術で3か所首の骨を動かなくすると生活に支障をきたすので、後方アプローチ(椎弓形成術)を行います。前方から脊髄が強く圧迫されている場合は、椎弓形成術の方が安全だと考えられます。

変形性頸椎症・頸椎椎間板ヘルニアに対する頸椎前方固定術の際に使用する自家骨移植やプレート固定法、人工椎間板の特徴を考察しました。
(1)自家腸骨:前方固定術の基本は自家腸骨を切除した椎体、椎間板腔に移植する古典的な手法です。この手法の長所は①自家骨移植であり感染の危険性が少なく、②癒合性が高く、③高い器械を使わなくてもすむことです。短所は①腰の前外側の骨を使うのですが骨をとったところにベルトなどが当たると痛くなることがあること、②採骨量・形が限定される点です。
(2)アパセラム(hydroxyapatite)性人工骨
長所は①腸骨をとる必要がなく採骨部痛がない、②3か月以上経過すれば癒合すると報告されている、③アパセラムは柔らかく、加工が容易であることです。短所は①手術後はずれることがある、②感染を生じた場合、除去するしか方法がない(人工物を利用した前方固定術すべてにいえる点です。その際は自家腸骨で再度前方固定を行います)、③人工骨はみな高価であることです。
(3)チタンプレート
チタニウム合金のプレートを各椎体前面にねじ止めし前方固定術を行います。アパセラムやチタンケージ留置後に脱転予防のため、チタンプレート固定する場合があります。長所は頑強な固定が可能であり、早期離床が可能であることです(手術3日後には歩行可能です)。短所は①脱転の危険性がある(最近のものはロック付スクリューを使用し脱落しにくくなっている)、②椎間の可動性が損なわれるため、外傷以外の変形性頚椎症や椎間板ヘルニア症例には使用しにくい、③母床骨の破壊(骨折、挫滅等)が生じる可能性がある、④高価である点です。単独では頸椎骨折の固定の際に利用されるが、変形性頸椎症では単独使用は原則として行いません。
(4)チタン合金製ケージ
最近では円柱形(シリンダー型)もしくは直方体形状(ボックス型)のチタン合金製のケージ(鳥籠の意)という人工椎間板を使用して前方固定を行う例が増えてきています。長所は①自家骨移植やアパセラム挿入法に比べるとがっちりと固定され、手術後歩けるまでの期間が短い(手術3日後には歩けるようになります)、②椎間の可動性はある程度残されている、③Cage内に骨細片を充填することにより将来的な骨癒合が期待できる点です。短所は①高価である(Cage1個が20万円以上する)、②母床骨の破壊(骨折、挫滅等)により沈み込み=sinkingが生じる可能性がある点です。最近注目されているフランスのキスコメディカ社製のDFDDは、直方体ケージを挿入した後にケージ前面のねじをしめることにより前部を挙上し後彎を矯正することができます。後彎変形が強い患者に対する前方固定術として有用と考えられるますが、手術後時間がたってから除去するのが困難であるとの指摘もあります。


手術例の画像に関しては[自己紹介]をご覧ください。