MRI FLAIR法を活用した開頭脳腫瘍摘出術
脳腫瘍は頭蓋骨内という閉鎖空間の中で増大するため、周囲脳との癒着や浸潤部位の処理に細心の注意を払う必要があります。
安全で確実な脳腫瘍摘出術を行うには、
①手術前に最も安全で摘出しやすいと思われるアプローチを考えて手術に臨むこと、
②手術中に現在腫瘍のどこを摘出しているのか正確にわかること、
③腫瘍摘出に際しては、腫瘍内もしくは腫瘍に接している脳血管や脳神経の機能温存に努めること、
の3点が特に重要です。
また手術後に大事なのは、④摘出した腫瘍を病理で調べ、再発しやすいと予測できるものはしっかりと経過をみることです。
その観点から、私は今までに開頭腫瘍摘出術に対して様々な工夫を凝らし、摘出困難な腫瘍に対しても機能温存の上での全摘出を行ってきました。
現在までに論文発表・学会発表した内容を順に紹介したいと思います。
①に関して
MRI FLAIR法(first liquid acquisition invertion recovery sequence)は、MRIで一般的に行うT2WI(T2 weighted imaging)において脳腫瘍の周囲の脳浮腫は白いままで水のみを無信号(空気と同じ黒色にする)に変えて表示する撮像法です。
FLAIR法の開頭腫瘍摘出術における最大の利点は、脳腫瘍と周囲の脳との間に少しでも脳脊髄液=隙間があるかどうかが術前にわかることです。隙間があればそこを利用して腫瘍の脳の間の剥離を安全に行うことができます。
私はFLAIR法が日本に導入された1994年から髄膜腫、悪性神経膠腫、類上皮腫、聴神経鞘腫の34例の開頭腫瘍摘出術においてFLAIR法を実際に使用し、非常に有用であることをいち早く報告しました。この方法は世界に先駆けて発表しましたが現在では一般的になっています。特に類上皮腫とくも膜嚢胞の鑑別はFLAIR法がでるまでは困難でしたが、FLAIR法で鑑別が容易であることも報告しました(現在はMRI DWIでも鑑別が可能です)。
(FLAIR法を利用した開頭腫瘍摘出術:要約)
full text(脳神経外科1997)FLAIR法を利用した脳腫瘍摘出術.pdf
三井記念病院脳神経外科では、FLAIR法を有効活用し開頭腫瘍摘出術を行っています。
①に関して、もう一つのポイントである脳深部の腫瘍に対する手術に関しては
⇒「脳腫瘍の治療を知る その3 脳溝を利用した腫瘍摘出術」を御覧ください。
②③に関しては
⇒「脳腫瘍の治療を知る その2 術中ナビゲーションと術中モニタリング」をご覧下さい。
④に関しては
⇒「脳腫瘍の治療を知る その4 脳腫瘍の術後再発が病理でわかる」を御覧ください。