脳腫瘍で最も多い良性腫瘍に髄膜腫という脳と骨の間にある硬膜表面から発生する良性腫瘍があります。
髄膜腫は一般的に手術で全摘出をすれば治癒ができる良性腫瘍ですが、脳の深いところにあったり、周りに大事な神経や血管が有る場合は全摘出が困難な場合があり、手術後再増大する可能性が高いかどうかの予測が重要です。
手術中に採取した腫瘍細胞を病理検査を行いますが、分裂している細胞が多ければ再発率が高い可能性があります。
私は、現埼玉医科大学脳神経外科教授の藤巻高光先生と現帝京大学脳神経外科主任教授の松野彰先生らと共同で、開頭腫瘍摘出術を行い術後再発に対して再手術を行った29例の髄膜腫の病理標本を利用して、腫瘍の細胞分裂の指標となるMIB-1 indexを調べ(ホルマリン標本があれば手術後何年たっても調べることができます)、腫瘍体積が倍に成るまでの時間(腫瘍倍加時間)とMIB-1の間に、逆相関関係があることを証明し、腫瘍医学で最も権威のある英語学術雑誌の1つであるCancerに掲載されました(Cancer1999; 85:2249-54. Impact Factor 2015= 9.329)。
要約(Cancer 1999)full textMIB-1 & recurrent meningioma.pdf
こうした研究がきっかけとなり、世界中でMIB-1が病理検査として使用されるようになり、現在もMIB-1 indexは腫瘍の増殖能を見る最も大事な病理検査とみなされています。
なお、長年世界の脳腫瘍治療を牽引された埼玉医科大学名誉教授松谷雅生先生が退官後集大成として執筆上梓された「脳腫瘍治療学(金芳堂2016年)」p580-581, 604にこの論文が図とともに引用されています。脳腫瘍治療のバイブルとされる教科書において、世界中から厳選された2130件の引用文献の一つに私の論文が選ばれたことは大変な栄誉と感じております。
論文のまとめ(抄録)を以下に紹介します。


MIB-1 indexを使用した髄膜腫の術後腫瘍倍加時間の予測
Postoperative residual tumor growth of meningioma can be predicted by MIB-1 immunohistochemistry

[研究の背景] 髄膜腫は外科的切除で治療できる良性腫瘍である。しかし、深部、内側部、重要な構造物に接する腫瘍を完全に除去することはできない。今回MIB-1モノクローナル抗体を用いた免疫組織化学的研究を行い、再発腫瘍の増殖速度の判定に有用かどうかを調べた。

[方法] 29の異なる経過観察期間の術後症例の腫瘍倍加時間(tumor doubling time: Td)を、CT又はMRIを用いて測定した。 MIB-1モノクローナル抗体を使用して、手術標本のKi-67増殖細胞抗原を染色した。MIB-1染色指数(staining index: SI)は、画像分析とは独立して計測した。Td、MIB-1 SI、他の臨床パラメータを、統計学的に解析した。

[結果] Td は19~6830日(中央値350日)で、<365日が15例、365~730日が8例、> 730日が6例であった。年齢とTdの値との間に有意な相関はなかったが、Tdが> 2年の全6例が> 50歳であった。log(TD)とMIB-1 SIとの間に強い逆相関がみられた(P <0.001)。
3例は腫瘍の再発のため3回以上追加手術を行った。 MIB-1値は、初回再発時には増加していなかったが、2回以降の再発では増加した。Tdは、2回以上の再発までは短縮しなかった。

[結論] MIB-1 SIは、初回手術後の腫瘍の再増大の可能性を予測できる。


腫瘍倍加時間の予測式:log Td= 31.4 – 0.14 ×MIB SI
R2乗 = 0.556 (P< 0.0001)